REPORT

評価・研究

2019/10/31

【レポート】お寺deハレバーレ!イベントまとめ(第3部)

NPO法人HELLOlifeが2018年11月に開催した「お寺deハレバーレ!」。
7日間にわたり開催されたこのイベントには働くこと、生きることに悩む若者たちを中心に延べ204名が参加した。

ここまで第1部第2部とイベントの全体像と参加者である若者たちの変化についてみてきたが、第3部では寺院を実際に運営する方々や、今回の企画にご協力頂いた僧侶へのアンケート結果から、就業支援において「寺」という場が持つ現代的な意味を考えたい。

コンテンツ「最期から考える、これからの働き方・生き方」に参加する参加者の様子

1.寺院へのアンケート調査から

(1)調査の目的

寺院へのアンケート調査は、26の寺院を対象に実施した。調査は、
・ 寺院という場や機能を活用し若者の就職支援を行うことについて、お寺の関係者がどのように感じるか
・ 檀家を代表とする寺院独自のネットワークが、対象とする若者層へのアウトリーチに効果的か
という2点を把握することを目的とした。

また配布先としては、
・ 本プログラムに協力頂いた寺院が回答したケース(5件)
・ その他の寺院が回答したケース(21件)
の両者が含まれている。
プログラムに参加頂いた以外の寺院からの回答には、東京神谷町・光明寺僧侶で住職向けのお寺経営塾「未来の住職塾」塾長の松本紹圭氏が主催するFacebookグループを通じてアンケートの回答にご協力頂いたものが多く含まれる。松本氏には、期間中に開催した公開企画「若者支援施策イノベーションシンポジウム」にもご登壇頂き、多くのご示唆を頂いた(関連記事はこちら)。従って、アンケートの回答者は一般的な寺院に比べて寺院の今後のあり方を積極的に模索し、地域貢献にも積極的である層が多く含まれている可能性があることにはご留意頂きたい。

それではまずは回答頂いた寺院の属性をみていきたい。

(2)回答者の属性

宗旨については、浄土真宗が4割を超え、次いで浄土宗、日蓮宗、真言宗と続く(図表 1)。
また今回の調査では、全体の約4割の寺院が、いわゆる大都市(政令指定市レベル)に立地していた。逆に1万人以下の都市に立地する寺院は全体の1割に満たない(図表 2)。

(3)檀家との接点は法要、月参り、寺での講座など

続いて檀家との接点について聞いたところ、最も多かったのが「法要」、続いて「月参り」、「寺での講座」、そして「寺報」と呼ばれる寺独自の通信やお知らせを挙げる例が続いた(図表 3)。

(4)檀家の困りごとをどの程度把握しているか?

アンケートでは、各寺院がどのような檀家の困りごとを、どの程度把握しているか聞いた。具体的には
・ 認知症など高齢化による問題
・ ひとり暮らしの高齢者の有無
・ 家事手伝いなどの独身無業女性の存在
・ 引きこもりやニート状態にある人の存在
・ 生活に困窮している人・世帯の存在
・ 依存症や精神疾患にある人の存在
・ 子どもの虐待やDVに関する情報
・ ネグレクトに関する情報
という8つについて、当てはまる檀家を何軒ほど把握しているかを聞いた。

その結果、「認知症などの高齢化」「ひとり暮らしの高齢者」といった高齢者に関する課題については「10軒以上把握している」と回答した寺院がそれぞれ14件、16件と多い結果となった(図表 4)。
一方でひきこもり・ニートや独身無業女性の存在については、該当する檀家が「1~3軒思い当たる」と回答した寺院がそれぞれ8件、9件と最も多く存在した。また該当する檀家は「0軒」あるいは「不明」と回答する寺院も多い。一方で「10軒以上思い当たる」と回答した寺院が前者(ひきこもり・ニート)では1件、後者(独身無業女性)では3件存在するなど、回答にばらつきが生まれている。(図表 5)。

■ 高齢者に関する状況については、「把握している」と回答する寺院数も多く、思い当たる檀家の軒数も多い。
■ ひきこもり・ニートや独身無業女性の存在について、1~3軒の檀家が思い当たると回答した寺院がそれぞれ8件、9件と最多であった。
■ また0軒、不明と回答する寺院も多い。
■ 一方で「10軒以上思い当たる」と回答した例もそれぞれ1件、3件と存在し、全体としてはばらつきが大きくなっている。

さらには生活に困窮している、依存症や精神疾患がある檀家が思い当たるか聞いたところ、檀家数としては「1~3軒」と少ないものの、10~13の寺院が思い当たると回答する結果となった。また10軒以上思い当たると回答した寺院数は、両問共に2件あった(図表 6)。

■ 生活の困窮や依存症・精神疾患がある檀家について、1~3軒と檀家数は少ないものの、それぞれ10件、13件の寺院が思い当たると回答した。
■ また10軒以上思い当たると回答した例は、両質問ともに2件ずつ存在した。

その一方で、ネグレクト(育児放棄)や子どもの虐待・DVについては、該当する檀家が思い当たらないと回答する例が最も多く、この分野については檀家の状況の把握が進んでいない、あるいはネットワークが重ならない様子が見て取れた(図表 8)。

■ ネグレクト(育児放棄)や子どもの虐待・DVについては「不明」あるいは「該当する檀家は0軒」と答えるケースが多い結果となった。

(5)寺院での若者の就職支援に関する意欲

次に寺院関係者に「若者の就職支援について取り組みたいと思うか」尋ねた。その結果8割を超える寺院から「取り組みたい」との回答が得られた。

その理由を得られたコメントから3つのパターンに分けて解説したい。

一つ目は「若者を支えたい」というダイレクトな意見である。具体的には
・ 若者がきっかけをつかむ場所が多ければ多いほどいい。お寺も協力して選択肢を増やす必要がある
・ 社会との繋がりが希薄になっている。ニート状態の人々の将来の困窮が目に見えている(ため支える必要がある)
・ 現在は「終活」などの高齢者への対応が中心だが、若者に関しても協力したい
という意見がこれにあたる。

二つ目は、「連携の結節点としての役割」を意識した意見である。具体的には
・ お寺をハブに、様々な機関と連携して社会問題に向き合うことが大切
・ 寺院は地域の相談窓口としての役目を果たしていくことが必要である
といった意見がこれにあたる。

三つ目は「あらゆる世代の人を支えたい」「当然の行為だ」という意見である。具体的には
・ 年齢にかかわらずあらゆる人を支えたい
・ 困ったときに手を差し伸べるのがお寺の役割だから
・ 社会への貢献として必要
といった意見がこれにあたる。

またこうした取り組みは「これからの時代に必要される」という意見のほか、「寺院活性化にも繋がり、宗門の存続可能性にもつながる」という寺院側へのメリットを挙げる声もあった。

一方で戸惑いや懸念、心配の声としては、
・ 既に特別支援学校や児童養護施設、障害者福祉事業所の就労サービス利用など、児童福祉・障害福祉分野に積極的に取り組んでおり、活動が散漫にならないようにしたい
という声や、
・ 恥ずかしながらこの分野についてあまり知らない。少しずつ理解したい
という声、
・ 高齢化率が高く、若者があまりいない
といった内容が寄せられた。

このように今回得られた意見は、取り組みを否定する内容ではなく、優先順位や知識・理解の必要性に関する声が中心であったといえる。

(6)本企画への今後の協力意欲

また今後、「お寺deハレバーレ!」のような企画に協力したいか尋ねたところ、「大変そう思う」が54%、「ややそう思う」が42%と、肯定的な意見が大半を占めた。

同様に得られた意見について紹介したい。
「大変そう思う」「ややそう思う」と答えた寺院からは、「取り組みを通じて現状を知りたい」「何かやってみたい」という声が多く寄せられた。具体的には
・ まずはこういう活動やイベントを通じて現状などを知りたい
・ きっとできることがあると思う。できることをできるようにお手伝いしてみたい
・ 仏教で「無畏施」という不安や苦しみを取り除くという善行に沿っていると思う
といった意見がこれにあたる。

また「若い世代を支援したい」という意見も見られた。具体的には
・ 以前から興味があった。若い世代を支援すべき
・ 現在は「終活」など高齢の方への対応が多いが、若者にできることがあれば協力したい
・ 若者支援の取り組みはやったことがないから、新たな寺業として興味がある
といった声がこれにあたる。

また
・ 檀家の中にも何軒かそういった家庭があり、支援ができるなら何かしたいと以前から考えていた
・ 専門的なスキルや知識もなくなかなか踏み出せないでいた
・ 自分には相談に応じられるような度量はありませんが、場を提供するぐらいならできる
といった、「専門的な知識や技能を持つ人や組織と協力して実施するのであればやってみたい」という意見も見られた。

一方で、前問と同様
・ お寺単独では難しい
・ プライオリティーの問題
といった声も挙げられた。
また 「場所が狭いため、同じようなイベントの場所としては不向きか」という意見もあった。

2.まとめと総括

以上、アンケートやインタビューなどを通じて、「お寺deハレバーレ!」の参加者の意識の変化と寺院関係者の意見を見てきた。

参加者へのアンケートやインタビューからは、今回の取り組みは行政機関が設置する一般的な就職支援とは違った役割を果たしてきたこと、特に「まだ就職活動・転職活動には至らないけれど、不安を抱えている層」、そして「そうしたもやもやを誰かに相談できずにいた層」に対して訴求したことが分かった。
また「お坊さんによる人生相談」のような、僧侶による対話が、不安やストレスの解消に一定程度寄与し、仕事や人生に対して前向きになるきっかを提供できたことがわかった。

また寺院関係者へのアンケートからは、問題関心や檀家の状況の把握の程度には差があるものの、檀家の抱える課題について寺院がある程度情報を有していること、また檀家の現状に心配や憂慮を感じている例も存在することが把握できた。
さらには今回の取り組みについて、少なくとも今回のアンケートの回答者は好意的に受け止めていること、また寺院関係者自身が地域の結節点となる必要性を感じ、若者支援の重要さにも気付いている例が存在していることが示された。

もちろん、今回はアンケートは上述の通りの配布方法によって回答を得たため、全国の寺の標準的な意見を反映しているものではない。また回収数も少なく、データとしては偏りがあることは否めない。
また実際に取り組みを広げる際には、対象者に対する継続的な支援が必要になった場合や、より専門的な知見からサポートが必要になった際に適切な機関に繋ぐコーディネート機能も必要だろう。
しかし、今回の結果からは、若者自身が自らの働き方や生き方を考え直し、人生を大局的な視点で捉える場面において、身近な社会資源である「寺院」が一つのよりどころとなる可能性が高いことが示された結果となった。

以上、本事業では身近な社会資源である「お寺」に着目し、従来の就業支援施設とは異なる切り口から悩みや葛藤を抱える若者にアプローチする可能性を模索した。そして地域には、寺以外にも多様な社会資源が存在する。カフェや公園、図書館、モールなどの大規模商業施設など、地域に存在するあらゆる社会資源を見直し、より広い視野から社会課題解決に向けて連携・協力していくことがこれからの時代には必要だろう。そしてその際には、空間を利用するだけではなく、地域の中に存在するつながりや人的なネットワークを新たな観点から捉えなおし、つなぎなおすことが求められているといえよう。ハローライフにとって、今回の事業はそのための試金石だったと言える。

第1部の記事はこちら
第2部の記事はこちら

(書き手:水谷衣里 /NPO法人HELLOlife参与、株式会社 風とつばさ 代表取締役)
*本レポートに掲載されている写真はすべて、参加者ご本人の許諾を得たものです。