REPORT

評価・研究

2019/07/04

【レポート(後編)】総合就業支援拠点「OSAKAしごとフィールド」インタビュー

NPO法人HELLOlifeを代表構成員とする共同事業体が運営を受託したOSAKAしごとフィールド(以下、OSFと略記)。
後編ではOSFの運営の担い手であるHELLOlifeのスタッフ3人に、この2年間の変化と成果を聞いた。
前編はこちら

<OSF共同事業体メンバーの写真>

―まずはOSFでの皆さんの担っている役割を教えてください。

(古市)
OSFの運営全体を統括する立場として、各事業者の皆さんとどう協力体制を組んでいくか、調整しています。また新しいOSFの姿を模索しながら、新規の企画を立案したり、そのためのコーディネートを行う立場です。

(大野)
OSFでは、受付やバックオフィス業務全般を担っています。またLGBT100人会議や、就活ビアガーデンなど、私たちに運営が変わってから始めた新規企画について、詳細な企画内容を設計し、実際の事業へと作りこむ役割を担っています。

(和地)
同じく受付やバックオフィスなどの業務を担っています。電話対応などの細かな相談業務も受け持っていますし、毎月のセミナーの運営担当役でもあります。

<インタビューに答えるOSF運営メンバー(左)>

―OSFは、求職者支援と、企業支援の両方の役割を担っていると伺いました。

(古市)
そうですね。OSFは働きたい人と働き手を必要としている企業とをつなぐ役割を持っていると言えると思います。
OSFにはとても多様な方が来館されます。働くことに悩む若者、結婚や出産・パートナーの転勤などによって働き方の変化に直面した女性たち、今までのキャリアを活かして新しいチャレンジをする高齢者の方、障がいを持つ方…。総合的な就業支援拠点として、幅広い層を対象に事業を行っています。
同時に「中小企業人材支援センター」として、人材確保に困難を抱える中小企業の支援も行っています。それぞれの企業の魅力を伺いながら、より良いマッチングに繋げることが、OSFの使命です。

―運営にあたって、気を付けている点を教えてください。

(大野)
初めてOSFを利用する方でも、館内に入りやすい雰囲気になるよう心がけています。慣れない就職活動で緊張している方や、働くことに悩まれている方も来館するのがOSFです。幅広い方を対象とする施設ですので、どんな方でも気軽に利用でき、必要な時にはまた立ち寄りたいと思っていただける拠点になるよう、努力しています。

(和地)
明るすぎず、暗すぎず、利用者の方のお気持ちに合わせたお声がけを心がけています。居心地がいい、相談したい、と思う感覚は人それぞれなので、利用者の方の表情を見ながら対応することは大切ですね。
またセミナー運営の際には、面白い、であるとか、役に立つな、と思っていただけるコンテンツを揃えるように、多様な切り口を準備するよう心がけています。

――具体的にはどんなセミナーを開催しているんでしょうか?

(和地)
就職活動中の方が多くいらっしゃるので、いわゆるマナー研修や「好印象を与えられるメイクは?」のような、面接対策に繋がるコンテンツも揃えています。その時も「就活向けメイク対策」としてしまうと、実際の就職活動にまで行きついていない方にとっては心理的なハードルを感じやすいので、例えばセミナーのタイトルを「なりたい印象別のメイク講座」にするなど、発信の仕方にも気を配っています。

<和地さん(左)、大野さん(右)>

――OSFの運営には多様な立場の方々が参画していると伺いました。

(古市)
OSFは共同事業体として運営を受託しています。現場には、大阪府が直接雇用したキャリアカウンセラーの方もいれば、我々のようなNPOの人間もいるなど、スタッフの所属は様々です。また、長くキャリアカウンセリングを仕事としている方もいれば、畑違いの分野から意志を持って転職してきた方もいたりと、バックグラウンドも異なります。
多様な経験を力に変えるためにも、OSF内でのコミュニケーションが常に求められていると感じます。

――運営を受託してからこの2年で、どんな変化があったと感じますか?

(古市)
 OSFは「全国で一番信頼される行政サービスを目指す」ことをビジョンとして掲げています。
そのためには、まずは来たいと思ってもらえること、来館したら「来てよかった」と言ってもらえることが大切だと思います。
そのために、リノベーションによる空間のリニューアルや、「はたらくこと」を学ぶ学校、文化祭など、新しい施策に一つひとつ取り組んできました。
しかし最も大切だったことは、共同事業体としてのチームビルディングや、サービスの質の向上です。

――そのために、どのようなことに取り組まれてきたのでしょうか。

(古市)
一つはリニューアルオープンから時間も経ち、サービスの質は向上してきたという自負があります。しかし意識共有や目標の確認は常に必要です。そこで、OSFの運営に関わるスタッフや、キャリアカウンセラー、委託者である大阪府も含めて全体研修を開催しました。

――どんな議論が出来ましたか?

(古市)
改めてOSFのビジョンを共有し、「全国で一番信頼される行政サービス」を実現するためには、一人ひとりのスタッフがどのような行動をすれば良いのか、日々の行動を振り返る時間を持ちました。
スタッフの課題意識の共有にも時間を割きました。自分がやっている一つひとつの行動が、利用者のより良い未来にどうつながるのか、OSFという場を通じて、利用者にどんな気づきやきっかけを提供したいのか、その意味を考えながら、毎日の運営に取り組みたいと思ったからです。

――日々の行動を振り返り、改善に活かすための時間として、研修の機会を設けたということですね。

(古市)
様々なバックグラウンドを持つスタッフが、有機的につながり、行動するためには、一人ひとりが役割を認識し、ゴールや目標を共有しながら、自律的に行動できるよう環境を整えることが必要です。
またチーム間のコミュニケーションがより良く進むためには、互いを尊重し合える信頼関係を結ぶことも大切だと思います。
所属やバックグラウンドが多様だからこそ、根本的な信頼関係を築く機会をあえて設けることで、それぞれの強みが生きるのではないか、そう考えました。

<古市さん>

――これからどんな変化を起こしていきたいですか?

(和地)
常に「利用者ファースト」の場でありたいです。OSFに来る方々は、人生の岐路に立っていたるケースも多いように感じます。そうした方々をサポートするために、カウンセリング内容とセミナー内容が連動したり、一体的に運営されているなど、サービスの質を高めるための情報共有をもっともっと行っていきたいです。

<和地さん>

(大野)
OSFだからこそできることは何か、考えていきたいです。既存の行政サービスでは担えなかった役割を担いながら、ユニークで楽しい、でも常に「働くこと」や「生きること」の問い直しにつながるコンテンツを充実させていければと思っています。

<大野さん>

(古市)
リノベーションが進み、空間的としての明るさやクリエイティブなイメージは生み出すことができました。これからはいっそう、質の向上を極めていきたいですね。
OSFとして掲げているKPIは、OSFに新しく利用者として登録する人の数や、就職が決まった方の数など、量的な側面からのものが殆どです。しかし、それだけに終始するのではなくて、質の向上を追求したいです。OSFにとっての質の向上とは、利用者の人生に寄り添いながら、その人らしい生き方や働き方を見つけるためのサポートを行うことだと思います。それが出来てこそ、我々が今回の事業に参画した意味が出てくるのではないかと考えています。
OSFのような施設は、スタッフ一人ひとりの意識次第で、いかようにでも変化していくものだと思います。目の前のKPIは意識しつつ、利用者の方々がより良い人生を送るために何ができるか、考え続けたいです。

(書き手:水谷衣里 /NPO法人HELLOlife参与、株式会社 風とつばさ 代表取締役)