REPORT

評価・研究

2018/10/24

【第4回目 委員会レポート】2017年度ハローライフ構想まとめ 前編:MODEL HOUSEプロジェクト

第4回目の若者支援施策イノベーション委員会は、初年度のハローライフ構想を振り返り、次年度に繋げる場として開催しました。委員会では、今回の構想の中核を成した「MODEL HOUSE プロジェクト」と「就業支援拠点の価値拡充」の2点について、ディスカッションを行いました。今回は前編として「MODEL HOUSEプロジェクト」に関する内容をお伝えします。

<会のはじめにプロジェクトに対する「疑問」「成果」「課題」の3つの視点から互いの意見を出し合うワークをおこなった。>

【メインテーブル】
・花岡隼人さん(公益財団法人日本財団ソーシャル・イノベーション推進チーム)
・山本恭一さん(大阪府 商工労働部 雇用推進室 就業促進課 課長補佐)
・谷口隆史さん(大阪府 住宅まちづくり部 住宅経営室 経営管理課 総括主査)
・塩山諒 (NPO法人 HELLOlife 代表理事)

【進行役】
・水谷衣里 (株式会社 風とつばさ 代表取締役/NPO法人 HELLOlife 参与)

【オブザーバー】
・藤原裕之さん(大阪住宅安全衛生協議会 会長)
・中村亮太さん(大阪府 政策企画部 企画室 計画課 主査)
・西岡宏二さん(大阪府 福祉部 地域福祉推進室 社会援護課 総括主査)
・稲山貴昭さん(大阪府 商工労働部 雇用推進室 労政課 総括主査)
・貞盛麻祐子さん(大阪府 商工労働部 雇用推進室 就業促進課 主事)
・宮本明奈さん(大阪府 商工労働部 雇用推進室 就業促進課 主事)
・古市邦人(NPO法人 HELLOlife)
・箭野美里(NPO法人 HELLOlife)
・渡辺眞子(NPO法人 HELLOlife)
・橋本純(NPO法人 HELLOlife)/撮影

(1) はじめに ~MODEL HOUSEプロジェクトとは~

NPO法人HELLOlifeは、2017年度、大阪府四條畷市にある公営住宅「清滝団地」を舞台に、「仕事」「住宅」「コミュニティ」の3つのサポートで若者の自立を支える「住宅付き就職支援プロジェクト MODEL HOUSE」をスタートしました。

大阪では、いま、概ね4人に1人の若者が非正規雇用で働いています。その数は約37万人です。正規雇用の平均年収が487万円であるのに対し、非正規雇用の場合は172万円で、約300万円もの開きがあります。そしてこうした若者の中には、意欲や能力はあるものの、一般的な職業紹介では安定的な就職に結びつかなかった層が存在しています。


MODEL HOUSEプロジェクトは、こうした従来の支援施策では安定的な就業に結び付かなかった若者を対象にしています。プロジェクトでは、自己分析やグループワークといった就職サポートと、府営住宅の提供やリノベーションプログラムの実施といった住宅サポート、および同じ悩みを持つ仲間や住民の方々との交流を軸としたコミュニティサポートの3つを行うことで、他者と協力し、必要な時に頼り合いながら、親元を離れ自立した生活を送れるよう若者を支えていくことを目指してスタートしました。

初年度は、25名の申し込みを得て、面談を通じて選ばれた11名の参加者が清滝住宅内のMODEL HOUSEに入居しました。このうち6名が就職し、5名が就職活動を継続しています(2018年3月末時点)。

今回の委員会では、こうした1年間の成果を振り返りながら、次年度の「MODEL HOUSEプロジェクト」をどのように進展させていくか、ご意見を頂きました。

<MODEL HOUSEプロジェクトの舞台になった団地(左)清滝住宅内に設置したコミュニティルーム(右)>

<PJの様子を解説するHELLOlifeの箭野(写真中央)>

清滝住宅の状況
■ 所在地:四條畷市清滝新町
■ 建築年:昭和45年(1970年) 築46年
■ 入居状況(平成29年3月末時点)
管理戸数 690戸(入居戸数 561戸、空室戸数 129戸)
入居率  81.3%
高齢化率 52.5%■ MODEL HOUSEプロジェクトでの使用住戸
コミュニティルーム 1戸(3K、約58㎡)
参加者用住戸   10戸(2K、約39㎡)

(2)1年間を振り返って

――1年間を振り返って、どのような成果があったと感じていらっしゃるか、教えて下さい。

(山本さん)
就業促進課の立場から言うと、まず何よりも、「公営住宅を活用した若者の就職支援」という枠組みが実現したことそのものが成果だったと思います。

福祉施策は別として、一般的に、自治体の就業支援で「住」に踏み込むことはあまりありません。MODEL HOUSEプロジェクトの場合、職の支援に加えて、住宅のサポートやコミュニティのサポートが含まれています。自立に向けて、一体的な支援が出来たことはとても良かったと思います。

(谷口さん)
住宅まちづくり部の立場から言うと、団地の活性化に繋がったことが何よりの収穫だったと思っています。

「MODEL HOUSEプロジェクト」では、参加者である若者が団地の清掃活動や自治会活動に参加することが促されていました。府営住宅を管理する立場からは、高齢化や老朽化が進み、コミュニティの維持が難しくなっていた団地に、若者たちが良い刺激を与えてくれていたよう感じました。近隣住民の皆さんも、若者たちと交流することで、新鮮なエネルギーを感じて下さったのではないかと思います。

(山本さん)
この取り組みを始める際に心配していたことは、自治体や地元の方々に受け入れてもらえるのか、という点でした。しかし、メディアに取り上げられたという追い風もあり、想像以上に理解が進んだなあと感じています。

(谷口さん)
始まる前は、「働くことに悩む若者って、どんな雰囲気なんだろう?コミュニケーションが取れるだろうか?」と不安も感じていました。しかし、プロジェクトが始まって実際に若者たちと話してみると、大人しいけれどとてもまじめで優しい若者が殆どでした。

府営住宅の高齢化率は4割を超え、清滝住宅の高齢化率は、募集を停止している影響もあり、52.5%に達しています。これは大阪府全体の高齢化率27%から比べると高い水準です。清滝住宅の自治会からも、今回の参加者である若者が地域の活動に積極的に関わってくれたという感謝の言葉を聞いています。団地自治会の活性化は、私たち自治体にとっても重要なテーマです。少しずつ高齢化が進む中で、若者との関わりは大切だと改めて感じました。

(塩山)
HELLOlifeのスタッフも、団地の自治会の皆さんと色々とお話しさせて頂きました。自治会の皆さんと積極的にコミュニケーションを取れたことも一つの成果だったなあと感じます。1年前にプロジェクトをスタートする時点では想像できなかったほどです。

(花岡さん)
部署を横断した取り組みだった点も素晴らしいと感じました。就業支援と生活支援を組み合わせているところが、このプロジェクトのユニークな点だと感じます。初めての試みでしたし、最初の調整は大変だったと聞いていますが、最終的にはそれぞれの良さを活かした納得度の高いプロジェクトになったのではないでしょうか。

<雇用担当部署の山本さん(左)・府営住宅の管理部署の谷口さん(右)>

<清滝住宅にて。団地内の自治会の活動には参加者である若者たちが積極的に参加した。写真は清掃活動の様子。>

(3)参加者の変化

――現場で若者たちと接していて、どんなことを感じられましたか?

(箭野)
今回のプロジェクトには「MODEL HOUSE」という名前を付けました。就業支援の新しいモデルを作っていきたいと付けた名前でしたが、まさにその通りになったと思います。

特に参加者の皆さんが「自分たちがモデルを作っていくんだ」という気持ちを持ってくれたのがとても嬉しかったですね。一つひとつのプログラムの振り返りを一緒にしてくれたり、DIYプログラムについて意見を言ってくれるなど、参加者と共にプロジェクトを作り上げてきた感覚があります。若者たちはただの「参加者」ではなく、「一緒にプロジェクトを担ってくれる仲間たち」なんだという感覚を生み出すことが出来たことがとても良かったと思っています。

(貞盛さん)
私はプロジェクト開始後、入居を希望する若者と面談をする段階から同席させて頂きました。1年間を通じて、最初の頃は人と目を合わすことも難しかった若者が、同じ状況にある仲間やHELLOlifeのスタッフとのコミュニケーションを通じて、少しずつ自信を得ていく様子が印象的でした。若者たちの変化を垣間見ることが出来たことが、担当としてとても嬉しかったです。

(塩山)
何より参加者の皆さんの表情がとても良くなったなあと感じます。MODEL HOUSEに入居を決める過程で「変わらなきゃ」という気持ちが高まっていったのだと思います。プロジェクトに参加した後は、仲間や近隣の皆さん、あるいはHELLOlifeのスタッフとの関わりを通じて気持ちが変化していったのではないでしょうか。背中を押されている感覚が、表情の変化につながったのかなと思います。

<プロジェクト実施にあたり、大阪府 商工労働部 雇用推進室 就業促進課の皆さんには様々なアドバイスとサポートを頂いた。写真は同課で参加者とのDIYプログラムも経験した職員の皆さん>

(4)得られた学び

――1年間の事業を通じて、得られた学びを教えてください。

(渡辺)
今回のプロジェクトを通じて、働く・暮らす・繋がるという3つの要素が大切だということが改めて確認できました。私たちは現場でプロジェクトをつくり、参加した若者と日々話し応援してきた立場です。自主事業で展開しているハローライフスクール(※1) の受講生の中には、大学に入学する前に目的を失ってしまっていたケースや、働くということに前向きな感覚を持ち続けることが難しい若者もいます。そういう方に対しては、その人が必死で打ち込める“何か”や、前向きになれる“何か”を一緒に探すことが大切だと思ってきました。

今回は、一面的な就職支援だけではなく、地域の方々に後押ししてもらうことも含めて、誰かと繋がることで自信を得たり、自分自身を客観的に見ることが出来るようになったのだと思います。

とはいえ、まだまだ全員が安定的な就職先を見つけられているわけではありません。就職の際のミスマッチの予防や離職防止、継続的な就職が難しい状況に直面した際のケアやフォローなどは、この先も続けていきたいです。

(※1)ハローライフスクールは、「ひとりで戦わないしごと探し」をキャッチフレーズに、約1か月間に亘って行う就職活動支援のプログラムです。グループワーク形式の講座や、専門のキャリアカウンセラーによるサポート、企業との交流イベントや企業訪問などを通じて、自分の人生に向き合い仕事を探すプロセスを支えています。

(箭野)
適切なアプローチをどのように行うかが課題だと感じます。今年度も、特設サイトの開設やチラシの作成、サポートステーションやわかものハローワークなどの支援機関の協力を得て、広報周知に力を入れました。プレスリリースを通じたメディアへの情報提供でニュースとなり、親御さんが番組を見ていたことでエントリーに繋がった若者もいます。しかし「職」と「住」の両方にニーズがある方にこそ、このプロジェクトを届けたい。そう考えると両方のニーズを抱えた若者にどう出会っていくのかが私たちにとって大きな課題だと感じます。

(花岡さん)
本当に困っている人は声を上げられないですから、そうした層にどうアプローチしていくのかが課題ですよね。

(山本さん)
大阪府では「働く」を切り口に様々な施策を展開しています。色々な施策がある中で、今回のプロジェクトの対象者がどんな層なのかは、再度検証していく必要があると思います。他の施策で十分支えられる層と重複していてはもったいないと思いますから。

ただそれは、単に「住宅が無くて困っているから団地の部屋を提供する」という話ではないと思います。このプログラムは、若者の自立のために、仲間同士の支え合いや近所の人たちとの関わり合いを組み入れているところに意義がある。つまり、コミュニティの力が活かされるから団地を活用しているんだと思います。その良さを生かしたプログラムであって欲しいなと思います。

<清滝住宅には、HELLOlifeのスタッフが訪れ、参加者のサポートを行った。写真は実際にサポートを行ったスタッフの箭野(左)、渡辺(右)の両名>

(5)働くを体験できる機会をもっと

――自分が暮らす場を自分でつくる、というコンセプトも独特でした。

(箭野)
DIYを通じても、コミュニティの力を感じました。若者同士がコミュニケーションしながら、自分たちの暮らしを作っていくというところに今回のプロジェクトの特徴があったと思います。

DIYという手段を選択した理由には、予算上の制約という面もありました。しかしそれ以上に仲間を得るという効果があったように思います。人見知りだったり、引っ込み思案だったり、対人コミュニケーションに苦手意識がある若者でも、共同作業をすることで自然と役割を見出すことが出来るんだということを、今回のプロジェクトを通じて強く感じました。

(藤原さん)
大阪住宅安全衛生協議会としても、業界全体の人手不足が言われる中で、何かできることはないかと思い、今回のプロジェクトに協力させて頂きました。DIYの際には協会加盟団体に呼びかけて職人を手配し、現地に派遣して実際の現場作業を若者と共に行いました。双方にとって貴重な機会になったと思います。

(古市)
就職に至った参加者こそいないものの、実際の作業を通じて建設・建築業界への関心が高まった参加者もいましたし、これからもこうしたリアルな体験の機会を作っていきたいですね。

<大阪住宅安全衛生協議会の藤原さん(左)>

<DIYでは入居予定の若者自らが団地内のリノベーションを行った。>

(6)団地の持つ可能性

――団地という場所の特性も大切ですね。

(谷口さん)
大阪府では、清滝住宅以外でも空室を活用し、団地内のコミュニティづくりにつながる取り組みを進めています。乳幼児を対象とした小規模保育を行っているケース、高齢者の交流拠点を設けているケースなど、さまざまです。こういったケースは、その団地だけではなく、周囲に暮らす住民の方々も含めて、交流を深め、コミュニティを豊かにすることも目的のひとつです。

高齢化は、すぐに歯止めをかけることが難しい問題です。現状の中で、どうコミュニティを作っていくかが問われていると感じています。

清滝住宅に限らず、大阪府内全体でこうした取り組みが広がっていくとよいと思いますが、それにはコーディネート役としてNPOや地域で活動されている方々の役割が重要と感じています。

(箭野)
1年間のプロジェクトを通じて、団地には様々な人が暮らしているということが実感できました。例えば“昔は野球をやっていたよ”とか、“料理は得意”、など、普段挨拶しているだけでは気づかないけれど、話してみると意外な特技を持っている方もいらっしゃることがわかりました。月に一度の清掃活動だけではなく、もっと色々な側面から交流する機会や場を設けると良いのかもしれません。

(塩山)
若者の強みと、団地に元々住んでいた方々の強みが双方向で作用し合うと良いですよね。団地全体がキャンパスで、教えられる人が“先生”として集まって、コミュニティをつくっていくようなイメージです。若者という新しい存在が入ることで、学び合えるコミュニティが作れると素敵だなと思います。

(谷口さん)
保育だけ、高齢者だけ、といった縦割りにせずに多世代交流を促す仕組みも良いですよね。食を通じた交流だと、高齢者の方も“先生”になれるし、共通の話題もできて良いかもしれません。

<コミュニティルームのオープニングパーティーの様子。参加者の若者、団地の自治会の皆さん、自治体の皆さんなど関係者の皆さんと一緒に。>

(7)“働く”意欲と“暮らす”意欲をつなげる

(塩山)
――改めて、MODEL HOUSEプロジェクトのどんな点に価値があったと思いますか?

僕たちの世代だと、非正規雇用で働く人も多いです。毎日頑張っていても、年収がアップすることが無いなど、結婚や子どもといった将来の希望が持ちにくい現状もあります。

これだけ格差が広がり、経済の縮小が言われている中で、年収アップだけが生きる望みだったら、働き続けること自体がしんどくなると思うんです。

だから僕たちは、コミュニティの力も、空いている場所や空間もみんな利用して、分かち合うことで生活コストを下げることと、生きがいを見出すことの両方を実現したいと思っています。

住居は生活コストのとても大きな部分を占めます。でも今回のように団地という地域にある資源を活かすことで、コミュニティルームやキッチンを共有するなど、ひとりで暮らしていては得られない空間的な広がりを得ることができます。

いつか銭湯や温泉も組み入れたいですね。それから農園もやりたい。そうやって暮らしの中で豊かな場所や空間を分かち合うことが出来れば、生活コストを下げても人生の豊かさは得ることができる。

そこにはコミュニティの力が必要です。働くことと暮らすことの意欲を繋げなければ実現しないと思っています。人と関わる中で、誰かが誰かの役に立ったり、頼ったり頼られたりする。そんな関係を大阪中で作っていけたらいいなあと思っています。

(書き手/水谷衣里)