REPORT

評価・研究

2018/08/09

【第3回目 委員会レポート】これからの時代の働き方と、新たな就業支援のカタチを考える

若者支援施策イノベーション委員会、第3回目は、株式会社スマイルズ代表取締役社長の遠山正道さん、面白法人カヤック代表取締役CEOの柳澤大輔さんのお二人をお迎えし、これからの時代の働き方、仕事と人生、そして就業支援について検討しました。

NPO法人HELLOlifeの代表・塩山も含め4人で行ったディスカッションは、さまざまなアイデアが盛り沢山の時間となりました。

(ご参加頂いたカヤック柳澤さん(左)とスマイルズ遠山さん(右)中央はHELLOlife代表の塩山)

■ 話し手


遠山 正道 氏(株式会社スマイルズ 代表取締役社長)


柳澤 大輔 氏(面白法人カヤック 代表取締役CEO)


塩山 諒(NPO法人HELLOlife 代表理事)

■ 聞き


水谷 衣里(NPO法人HELLOlife 参与、株式会社 風とつばさ 代表取締役)

(1)はじめに~OSAKAしごとフィールドの見学を終えて

NPO法人HELLOlifeは、大阪市西区に活動拠点となる「ハローライフ」を運営しています。2013年春にスタートした「ハローライフ」は、1階はカフェ、2階は求人情報など「働く」に関する情報相談窓口、3階はイベントスペース、4階は一般企業で就職する前に自信とスキルを身につけるための就労トレーニングの場として利用しています。同拠点では、若者を主な対象として、働くことを考え、自らの人生をより良く生きるためのサービス提供やサポートを行ってきました。

2017年からは、大阪市中央区北浜にあるOSAKAしごとフィールド(以下OSFと略記)の運営に参画しています。OSFは大阪府が設置する総合就業支援施設で、若者から高齢者まで幅広い年齢層の方をサポートしています。また子育て中の女性や、アクティブシニア、障がい者などの働くことに困難を感じている方など、年齢・状況を問わず「働きたい」と思っているすべての方をサポートしている点に特徴があります。

こうした取組を進める中で、NPO法人HELLOlifeは、「ひとり一人の人生(ライフ)に向き合う」就業支援のモデルを構築する必要があると考えるようになりました。そのためには民間による柔軟な発想やチャレンンジは維持しつつ、公的施設であるハローワークの価値拡充にも同時にトライする必要があります。地方自治体が主体となって運営する地方版ハローワーク・OSFの運営への参画は、その最初の一歩でもあるのです。


委員会に先立ち、お二人にはハローライフが運営に参画する大阪府の就業支援の拠点、「OSAKAしごとフィールド」(以下、OSFと略記)を見学して頂きました。※1

※1 おおさかしごとフィールドは、就職活動中の方など、年齢・状況を問わず「働きたい」と思っているすべての方が利用できる総合就業支援施設。大阪市中心部にあり、若者から高齢者まで幅広い層が利用している。ハローライフは共同事業体の一つとして、OSAKAしごとフィールドの運営に取り組んでいる。

また以前から自主的に運営している拠点「ハローライフ」でも、引き続き若者を中心に就業支援に取り組んでいます。まずは二つの施設を見て、感じたことを教えていただけますでしょうか。

(左:OSFに設置したブランコに乗るお二人。公園がコンセプトのOSFにはブランコが設置されている)
(右:西区靱本町にあるハローライフにて)

遠山さん:OSFは一般的な公的施設とは違って、中に入りやすい雰囲気なのがとても良いよね。就職や転職って、少し自分を見つめなおす時間が必要だと思う。だからOSFのように空間的にも余裕があって、仲間と語りあえる場所は意味があると思いますよ。
でもいざこっち(ハローライフ)に来てみると、また違った良さがあるんだなと思いました。特に若い人にとっては、大きな公園の前という立地や1階のカフェスペースの存在は、立ち寄りやすい雰囲気を感じるかもしれないね。

柳澤さん:OSFは行政がやっている分、千客万来的な、セーフティーネットとしての要素が強いのかなあと思いました。OSFは従来の役所っぽいところはあまりないけど、やっぱり雰囲気は違う。
どちらにしても、リアルな場所があるのは強いよね。OSFにあった職業展示のパネルも、リアリティがあっていいなあと。

(パネル展示を眺める柳澤さん)

(OSF内にある職業別のパネル展示)

(2)導線をどうつくるか

塩山:今回のハローライフのチャレンジは、国が展開しているハローワークや地方自治体が展開しているOSFのような地方版ハローワークとの取り組みを通じて、就業支援施策の価値をどう拡充できるか、という点にあります。これまでにOSFは空間やコンテンツにこだわりリノベーションを行いました。また運営側の意識統一のために、研修を通じたチームビルディングも行っています。
行政主導の就業支援と、民間主導の就業支援。両者の提供できるサービスやリーチできる層は異なりますが、色々な場があることで求職者の多様なニーズに応えることが出来るのではないかと思います。

遠山さん:OSFもハローライフも、来場者の導線をどう考えるかが大切だよね。どちらもネットで検索して存在を知る人が多いでしょ?スマホでまず検索する、っていう人が圧倒的だと思う。で、OSFとハローライフでは、ターゲットとなる就職希望者の像が異なるんだとすれば、それぞれが自分に向いた取組みや場を自分で選んでくれるように、導線をどう作るかが大切だよね。

柳澤さん:就業支援というと、求職情報を出しがちだけど、それぞれの拠点がどんな場所なのか、発信できると良いんじゃないかなあ。ほかにも色んな行政の支援の取組みはあるみたいだし。
どんな求人があるかも大切だけど、もっと直感的に、どういう種類の情報がそこにあるのか伝えるような工夫が必要だと思う。そこにリアルな場所があることの意味があるんじゃないかと思いますよ。

遠山さん:OSFもハローライフも、それぞれ特徴的な役割を担っているから、必要な人に自然と選ばれて、お互いを補完し合える、そういう関係になればいいね。

(3)ターゲットは誰なのか?

――それぞれの施設の真のターゲットが誰なのか、その人にどう情報を届けるかをしっかり考える必要があるかもしれません。

柳澤さん:ここ(ハローライフ)に関して言えば、民間がやる以上対価を取る必要もあって、だからセーフティーネット的な役割を期待するのは難しいですよね。企業側が対価を出すインセンティブが何か考えると、どうしても強いものを伸ばすという方向になる気がする。つまり優秀な人を集める方向性に落ち着くんじゃないかなと。
でもそれだと一般的な就職サービスと変わらなくなってしまうから、ハローライフが大切にしている「働くことに自信をなくしていたり、悩んでいる人をどう支えるのか」、「それをどう経営的に持続可能な形にするのか」ってところが難しいよね。ソーシャルゲームのように、無料ユーザーが98%いて、残り2%のユーザーが課金することで成り立つ、そんな運営構造が必要なのかもしれない。

塩山:働けないわけじゃない、でも何か支えがないと最初の一歩を踏み出すことが難しい若者たちはやっぱりいて、自分たちとしてはそういう層もしっかり支えたいと思っています。でもそれをするためには、マネタイズできる部分をいかに形にできるかが問われているな、と日々思います。

(4)人生100年時代の「働く」

遠山さん:ただ、「強い人」が「弱い人」になる瞬間もあるよね。入社した時に優秀な人であっても、働いているうちに自信が無くなったり、行き詰まることもあるでしょう?優秀だったはずなのに、強かったはずなのに、あれ?って思う時期が訪れることは誰にでもあるんだよね。
そういう時に、すぐ退職、すぐ転職じゃなくて、働きながらどうにかして違う役割を見出したり、仕事と並行して何か新しいことを始めることも必要なんじゃないかな。

――バーンアウトする前に、新しい環境に自分の身を置くということですね。

遠山さん:人生100年時代だから、いろんな局面があるよね。傍からは順調に働いているように見えても、本人は「ずっとこのままでいいんだろうか」、って悩んでいる場合も少なくない。だから一つの組織に縛られるのではなくて、会社で働きながら並行して次のキャリアを考えるということがもっとあってもいいと思う。
例えば、会社で働きながら、少し労働時間を減らす。そして空いた時間で全く別の組織や業種で働いてみる。それで「いいな」と思ったら転職したり起業する。そんな形もありだと思う。
ゼロかイチかではなくて、色々試したり知ったりする中から、また次のステージを探していくイメージだよね。夏は野球をやるんだけれど、冬はスノボもやってもいい、というくらいの気軽さで働くことを考えてみたって、時にはいいんじゃないかな。

――休職期間が長引いてしまって、企業側も働き手も行き詰まっているケースなんかもありますよね。そうなる前に、キャリアを見つめなおしたり、自分を活かせる場所を探す機会を提供できると、お互いにメリットがあるかもしれません。

柳澤さん:休職者をどうするか、というのは企業が抱える問題ですからね。長引くとお互いにとって苦しくなりがち。袋小路に入り込んでしまうから。

遠山さん:精神的にきつくなってしまった時に、別の選択肢を提示できるといいよね。辞めるか、耐えるかだけではなくて。それで復活してきてくれたら会社としてもメリットは大きい。辞めてしまうのは勿体ないから、色々考えながら自分が活きる道を考えてもらって、いよいよ出来そうになったら例えば一緒に会社を作ったっていいと思う。
うち(株式会社スマイルズ)は、スマイルズからも一部出資して一緒に会社を作り、最長2年間は給与保証もしながらやりたいことにチャレンジできる仕組みもある。セーフティーネットとして。で、うまくいったらまた一緒に仕事すればいいじゃない。別の組織だとしても。

――新しい体験をしながら、働き手が自分の可能性を探る。人間が持っている多面的なものの中で、一番活きるところに光が当てられるようにする、その環境を整えられると良いですよね。

(本町にあるハローライフにて。ディスカッションの様子)

(5)働くリアルを可視化する

――働くことのイメージや選択肢を求職者側にどう伝えるか、という課題があるように思います。

柳澤さん:OSFにしても、ハローライフにしても、せっかくリアルな場があるんだから、それを活かせるといいよね。ミュージアム的に体感できる機能がもっと強まるといい。ほら、例えばAmazonで本をレコメンドされるのと、大きな本屋に行ってわーっと本が並んでいる中に立つのと、得られる情報量が違うじゃない。それと同じで、どんな職業が世の中に存在しているのか、もっと体感できる場があるといいよね。そういうリアルな場と、例えばVR(※VR=Virtual Realityの略。仮想現実の意。)のような仕組みを組み合わせたらいいんじゃないかな。

塩山:子ども向けの職業体験施設はあると思うのですが、大人向けにもあってもいいと思っているんですよね。

遠山さん:さっき、とび職の道具が展示されていたけど、例えばドキュメンタリー映像を通じて、仕事としての魅力がもっと伝わるといいよね。あとは最近伝統工芸が流行っているから、漆器職人が流行る、とかね。いや漁師がいいんじゃないか、とか。今まで注目されなかった仕事がリスペクトされることで新しい人材流入を促すということもあるかもしれないね。

塩山:大学など教育の現場と連動してそれが出来ると良いですね。大学を出たからといって、全員が大企業に進めるわけではない。社会に出る前に、働く多様性を感じられる仕組みと、その中で自分がどんな役割を果たすのか考えられる機会があるといい。例えば世界が100人の村だったら、自分はどんな場所でどんな役割を果たすんだろう、と真剣に考えられたら、仕事観は変わると思います。

柳澤さん:自分と同じ状況にあった人が、OSFのような地方版ハローワークを経由して、その後どうなったかリアルに見られるといいよね。地方版ハローワークを予約すると、必ず自分のロールモデルに会える、みたいな工夫はありかもしれない。5年後こうなりました、というのはどうかな。

塩山:物理的な場所や施設にこだわらず、分散型や移動式で運営するという考え方もありですよね。例えばまちのカフェやお寺など、まちに普通に存在している場所に、ハローワークの機能の一部を持たせるという発想もあるのではないかと思います。あるいは車を改造して、ハローワーク機能を持たせて町中めぐる、なんていう方法も考えられますよね。

柳澤さん:いいね、面白い。食べログのシールみたいに、店頭にシール貼って、店長はキャリアカウンセラーの資格持っていて、相談に乗れます、とか。そうすると町全体がハローワークになるよね。
あとは婚活パーティーとか出会い系とか、そういうのと組み合わせてもいいかもしれないよね。例えば僕らは鎌倉が本拠地だけど、鎌倉で働く人を増やそうと思ったら、稼ぐ場所と一緒に、結婚相手も探したらいいと思っているからさ。

塩山:ハローライフのイベントで「恋のハローライフ」はとても人気のあるコンテンツです(笑)

柳澤さん:やっぱりね。働く意欲と恋愛って、相関関係あるだろうしね。

(6)得意の掛け算で生きる

――最適な場所を見つけることは大切ですが、社会の変化が激しい中では、生涯を通じてどう自分を生かしていくかという視点も大切ですね。

遠山さん:自分の場合、得意技は一つもないんだけど、得意の掛け合わせで価値になっているなと思うことは多いなあ。ビジネスとアートとか、領域が離れていればいるほど、レアさが際立つから、そういう生き残り方もあると思う。そう考えると、一つのものにこだわらずに、むしろ違う職業をどんどん開拓していく方が良いかもしれないよね。ギャップがある方が面白い。

柳澤さん:あえて期間限定でどんどん職業を変えるっていう発想もあるかもしれないよね。時間が有限だと必死になるから。それに、入ったら何とかなる世界もある。真面目に職業の選択肢を見せながら、一方で「就職ガチャ」のように、ガチャガチャのカプセルの中に企業の求人票が入っていて、引き当てた企業に職場体験や就職ができるというような仕組みで、経験をつめるように工夫するっていうのも、実は人の可能性を広げる手段かもしれない。

遠山さん:インターンを流動化する、という発想もあるかもしれないね。企業側は毎年20枚、インターンを受け入れるチケットがあって、行く側も何枚かチケットがあって、お互いに試せる。

柳澤さん:「マイ・インターン」っていう映画のように、高齢者がインターンする仕組みもいいよね。高齢者を中小企業に活かせればいい。そうすると、中小企業も参加するだろうし、大企業もOBOGの活かすところあるなら、って費用出してくれるかもしれない。

塩山:そういう仕組みを、地域で作れるといいですよね。中小企業も大企業も相乗りしながら、色んな人の得意をマッチングしていく。柳澤さんが普段おっしゃっている、「鎌倉資本主義※2」や「まちの人事部※3」という考え方にも近いと思います。

※2:面白法人カヤックでは、経済的な豊かさだけを追い求めるのではなく、自然や歴史、文化などさまざまな魅力を活かして、地域ならではの豊かさを実現することを目指す「地域資本主義」を提唱している。「鎌倉資本主義」は、鎌倉ならではの魅力を活かして、地域資本主義の実現を目指すことを指す。

※3:まちの人事部とは、鎌倉で働く人を増やすため、鎌倉の会社が力を「人事部」をシェアし、合同採用説明会や合同研修を行う仕組みのことを指す。

柳澤さん:何も大企業ですごい経験した人ばっかりじゃなくてもいいけどね。40年ずっと一度も休まなかったおばちゃんとかでもいいんじゃない?極端な才能とかキャリアがある人だけじゃなくて、世に埋もれがちな人にも光があたるといい。

塩山:ハローライフも、「まちの人事部」のように、キラリと光る地元企業に光を当てて、若者たちに伝える役割を果たしていきたいですね。中小企業も含めて、若者や求職者の人生を支える仕組みを大阪・関西全体で作っていきたい。働くことだけじゃなくて、恋愛も、結婚も、住居もまるごと、横ぐしをさして支えていくようなチャレンジを続けていきたいです。

遠山 正道(株式会社スマイルズ 代表取締役社長)

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、セレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、中目黒高架下のレストラン「PAVILION」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。近著に『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)がある。

柳澤 大輔(株式会社カヤック 代表取締役CEO)

1998年、学生時代の友人と面白法人カヤックを設立。2014年12月東証マザーズ上場(鎌倉唯一の上場企業)。鎌倉に本社を置き、Webサービス、アプリ、ソーシャルゲームなどオリジナリティあるコンテンツを数多く発信する。2015年に冒険法人プラコレ、2016年に株式会社ガルチ、2017年に鎌倉R不動産、ウェルプレイドがカヤックグループにジョイン。子会社として、2016年にカヤックハノイ支社、鎌倉自宅葬儀社、2017年に株式会社カヤックLIVINGを設立。100以上のWebサービスのクリエイティブディレクターをつとめる傍ら、Yahoo!JAPANインターネットクリエイティブアワードなどWeb広告賞で審査員歴を持つ。ユニークな人事制度やワークスタイルを発信し、新しい会社のスタイルに挑戦中。2015年株式会社TOWの社外取締役、2016年に株式会社クックパッドの社外取締役就任。

塩山 諒(NPO法人HELLOlife 代表理事)

1984年兵庫県生まれ。2007年に社会変革への衝動を形にしようと「スマスタ」を設立。既成概念にとらわれない「創造力」と、セクターを越えた「つながり」で、この豊かなまちの格差や貧困問題解決に挑戦している。2014年度グッドデザイン賞を受賞。2016年度は「日本財団ソーシャルイノベーター支援制度」において、ソーシャルイノベーター10件に選定される。2017年10月、労働・雇用分野における取組みを加速させるため「HELLOlife」へ社名変更。

水谷 衣里(NPO法人HELLOlife参与、株式会社 風とつばさ 代表取締役)

三菱UFJリサーチ&コンサルティングにて、NPOやソーシャルビジネス等の民間公益活動に関する政策立案、企業の社会貢献活動に関するコンサルティングに従事。
2017年春に独立、引き続きソーシャルセクターの基盤強化、社会的投資の推進、プロボノコミュニティの運営、人材育成等を行う。世田谷コミュニティ財団代表理事。日本ファンドレイジング協会社会的インパクトセンター副センター長。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン理事。ブログにて発信を継続中(http://www.kazetotsubasa.com/)