評価・研究
2018/03/30
若者支援施策イノベーション委員会、第2回目の委員会は、四條畷市長の東修平さん、大分大学の川田菜穂子さんのお二人をお迎えし、「住宅つき就職支援プロジェクト MODEL HOUSE(以下、MODEL HOUSEプロジェクト)」での取組みや、若者支援施策とコミュニティのこれからについて、ディスカッションを行いました。
東市長は、NPO法人HELLOlifeが取り組むMODEL HOUSEプロジェクトの舞台、大阪府営清滝住宅が立地する四條畷市で市長の職を担われています。
川田先生は、住宅政策や住宅問題について長年研究を重ねられているほか、地元が関西という縁もあり、委員会にご参加頂きました。NPO法人HELLOlifeの代表・塩山も含め、4人で行ったディスカッション、どのような意見が出たのでしょうか。
東 修平さん(四條畷市長)
川田 菜穂子さん(大分大学 教育学部 准教授)
塩山 諒(NPO法人HELLOlife 代表理事)
水谷 衣里(NPO法人HELLOlife 参与、株式会社 風とつばさ 代表取締役)
――委員会に先立ち、今回のMODEL HOUSEプロジェクトの舞台である大阪府営・清滝住宅のコミュニティスペースと、プロジェクトに参加している若者(以下、参加者)が住んでいる居室空間を見学し、参加者たちの実際の暮らしぶりを見て頂きました。視察を終えて、感じたことを教えてください。
東市長:居室空間とコミュニティスペースを見て、改めて民間らしい、ユニークな取組みだと感じました。参加者の皆さんが、建築業に携わる職人の皆さんの協力を得ながら行ったというリノベーションにも感心しました。部屋全体が、とても明るくて良い雰囲気ですね。
川田先生:参加者ともお話し、皆さんが真剣に自分自身のこれからの人生に向き合おうとされていることを感じました。今回部屋を見せて下さった間嶋さんが、とても良い表情をされていたのが印象的でした。
塩山:今回のプロジェクトでは、計11名の若者がサポートを受けています (注1)。応募してくれた若者が、今まで安定した就職に結びつかなかった理由は様々ですが、わたしたちハローライフが行う自己分析や企業研究、研修などの「就職サポート」と、居室空間とコミュニティスペースを自分たちの手でリノベーションし、独立した生活を営む「住宅サポート」によって、少しずつ自分なりの生き方を探している過程にあります。
注1:第1期7名、第2期2名、第3期2名の合計11名が参加。就業後、配属先が遠方だった等の理由により、卒業した参加者も存在する。
川田先生:コミュニティスペースの存在も有意義ですね。参加者同士のつながりを感じられる場所だと思いました。こうしたスペースがあることで、入居後も個人の居室空間に閉じこもらず、日常的に会話をしたり、食事をしたり、関係性を維持できるところが良いですね。
塩山:コミュニティスペースは、引き込もらない、閉じこもらない状況を作る上で大切な意味を持っています。それに、ひとり暮らしでこれだけの空間を持とうと思うと、相当な費用がかかります。でもコミュニティを自分たちでつくり、シェアすることで、自分の暮らしも、仲間の暮らしも良くなる。そのことが、仲間を得ることの大切さや、ひとりではないという感覚を身に着けること、人間関係を持つことの面白さや豊かさを教えてくれるのだと思います
東市長:シェアリングエコノミーのイメージですね。所有することではなく、使うことを通じて、人と繋がるという発想だと思います。キッチンや食堂スペースなど、
共有することで楽しさが生まれるところも良いと思います。関係性を築きながら、自分の暮らしも豊かになるところが魅力ですね。
川田先生:海外の低所得の若者向けの住宅は、最初から家具が付いていることがよくあります。家具や家電などの初期投資が大きいので、その分、元手が必要になります。家財が備え付けてあれば、入居者の費用負担を月々で平準化することができる。もちろん、その分家賃に上乗せはあるわけですが、入居時の負担は軽くて済むので、若者にとっては有難いサポートだと言えます。
東市長:自分も一人暮らしをしていましたが、ひとりとは言え、引越しの度に結構な費用が掛かるんですよね。
塩山:今回のMODELHOUSEプロジェクトでも、引越しや家財を揃える費用を工面するのに苦労した若者がいました。いくら家賃負担が無いとはいえ、家族や親族の支えがなければ、プロジェクトに参加することが難しいのが現実です。今後は奨学金のような制度があると良いですよね。まずは住居支援、就職支援を受ける。就職が決まったら、奨学金を返済していくように、費用負担分を返していくようなモデルがあると、手元にお金が無いけれど、生活を立て直したいと考えている人も参加できるようになります。
東市長:生活必需品を揃えるという意味でいえば、例えば車や自転車といった移動手段をシェアする、という考え方もありますね。出来るところからシェアして、負担を下げていくような工夫をする。そして経済的にステップアップをしていく過程で、必要なものを揃えていく。そんな暮らし方も考えられるかもしれませんね。
東市長:今回の取組みは、若者支援という文脈に留まらず、団地の自治会など、元々の住民の方とのふれあいも重視されていると聞きました。人と人とのつながりが具体化したり、団地としての価値も高める取組みに繋がっていくといいですね。
塩山:自治会長さんをはじめ、清滝住宅に元々住んでいた方にもこの取組みをあたたかく応援して頂いています。自治会の方々に最初にご挨拶させて頂いてから、その後、夏祭りの準備など自治会活動にも積極的に参加した結果、こちらの熱量を感じて頂けるようになったのではないかと思います。
川田先生:メディアの露出があったことも、理解を進めるきっかけになったのではないでしょうか。
塩山:今回のプロジェクトは、テレビや新聞記事でも取り上げて頂きましたので、映像や文字を通じて取組みの価値が伝わった面もあったと思います。同時に直接、日常的に言葉を交わすことも大切だったと実感しています。その結果、「よくわからない若者が住み始めた」というレベルを超えて、「応援しよう」という雰囲気が出てきたのではないかと思っています。
――今回の取組みを、もっと広げていくためにはどんなことが必要でしょうか。
川田先生:集合住宅ならではの強みを考えると良いと思います。集合住宅は、同じ場所に様々な背景の人たちが暮らしています。ひとり、またはひとつの家庭ですべてのことができなくても、補い合うことで、豊かな暮らしを実現することができる。例えばシングルマザーの方が住む、高齢者の方が住む。普通に考えると何らかのサポートが必要なわけですけれども、支え合うことは関係性を作ることにつながり、見守りなどの効果もある。そうした複合的な仕掛けがコミュニティの維持や安心できる暮らしには必要なのではないでしょうか。
東市長:例えばお母さんたちが共に働く場を作るなど、女性の就労支援などの取組みと組み合わせるのも面白いかもしれませんね。今はまだ、若者にフォーカスした取組ですが、様々な立場の方がこうしたコミュニティに根付いた暮らしを必要としていると思いますから。
塩山:いまは若者限定、10部屋限定ということで運営していますが、将来的にはもっと大規模に、対象者も多様にしていきたいと考えています。その結果として、例えばアーティスト・イン・レジデンス(注2) や大学との連携などにもチャレンジしたいです。色々な取組みを行う中で、移住者や定住者が増え、住宅ストックの活用に新しいムーブメントが生まれてくることを期待したいです。さらには新しい人材が集まることで、何か産業につながることが生まれても面白いかもしれません。
東市長:今のMODEL HOUSEプロジェクトでは、コミュニティスペースはくつろぎの場として位置付けられていますが、発想を変えて、コワーキングスペースやシェアオフィスを団地内につくるというチャレンジも面白いかもしれません。清滝住宅に限らず、多様な取組みが生まれてくることを期待したいですね。
塩山:企業との連携も考えたいです。いままで社宅を持っていた企業が、徐々に物件を手放しつつあると聞きます。そうした民間企業とユニークなコラボレーションが出来れば、また新しい住まい方の可能性が広がるのではないかと思います。
注2:芸術制作や創作活動を行う人たちが、ある場所に一定期間居住し、作品制作を行うこと。
川田先生:海外では、企業が公営(社会)住宅にある一定程度の資金負担を行い、社員向けの住居を確保している例があります。例えばフランスなどがその一例です。日本の場合、そのような仕組みはないので簡単ではありませんが、こうした例は未来を考える上で参考になるかもしれません。
塩山:僕たちが思い描く未来像として、生活の豊かさを追求する、ということがあります。経済的な余裕がないと豊かになれないのではなく、衣食住にまつわる様々なことを自分たちで創り出すことで、暮らしそのものを豊かにしていくことを考えたい。例えばコミュニティ農園や畑があったり、それを使う食堂があったり、共同浴場なんかもつくりたい。「温泉を掘りたい」と言いましたところ、大阪府の方にびっくりされてしまいましたが(笑)
東市長:温泉!楽しいですね。いずれにしても住民の皆さんにもプラスになる展開を期待したいです。
――MODEL HOUSEプロジェクトの今後に向けて、アドバイスをお願いします。
川田先生:まずは今の若者が置かれている状況を直視する必要があります。高校や大学を出ても雇用は流動的で、生活を安定させることは私たちが思っている以上に難しい。そういう中で、一つの挫折をきっかけに仕事を失い、住む場所を失ってしまうケースも起こっている。そうした厳しい現実があります。その上で、どんなサポートを社会として備えていけるのか、考える必要がありますね。
東市長:これからは一人一人の若者を地域で大切にしなければなりません。生産年齢人口が減少していく時代に入っていきますから。生きづらさを抱えた若者が、
今回のような取組みを通じて自立の足掛かりを得られることは価値があることだと思います。
川田先生:ひとつ思うこととして、若者はいつまでも若いわけではない、ということは心に留めておくべきだと思います。ライフステージが変わっていくなかで、住まいや暮らしのニーズも変わっていく。それに柔軟に応えられる取組を進めていくべきではないでしょうか。
東市長:自分自身が市長になった一番の理由は、若い人たちが四條畷市からいなくなってしまう、という危機感でした。市では15歳未満の人口がここ最近で15%も減っている。これはとてつもない問題です。だからこそ、若い世代のサポートはこれからも必要だと思いますし、産業を作っていく姿勢も大切です。同時にそうしたチャレンジが、他の世代やステークホルダーにも効果が波及していく、そんな未来を作っていきたいですね。
塩山:いまあるストックを大切にしながら、新しい働き方や生活価値を作っていく、そんな可能性を今回の取組みからは感じています。もっともっと多様な人や組織を巻き込みながら、うねりを作っていきたいと思います。
――今日はどうもありがとうございました。
1988年大阪府四條畷市生まれ。京都大学工学部卒業、同大学大学院工学研究科修士課程修了(原子核工学)。その後、外務省、野村総合研究所インドを経て、現役最年少市長となる(当選時28歳)。全国初の取組みとして、民間人材サービス会社とのコラボによる副市長の全国公募や、コミュニケーションアプリを用いた協働のまちづくりシステムの構築など、新しい基礎自治体のあり方に挑み続けている。
1977年兵庫県生まれ。住宅メーカー勤務、神戸大学教育研究補佐員等を経て、2010年に大分大学教育福祉科学部・講師に着任。2014年より現職(2016年に教育学部に改組)。専門は住居学(住宅政策・建築計画・住教育など)。著書に『深化する居住の危機 住宅白書2014-2016』(共著・ドメス出版)、『若者たちに住まいを!格差社会の住宅問題』(共著・岩波書店)などがある。
1984年兵庫県生まれ。2007年に社会変革への衝動を形にしようと「スマスタ」を設立。既成概念にとらわれない「創造力」と、セクターを越えた「つながり」で、この豊かなまちの格差や貧困問題解決に挑戦している。2014年度グッドデザイン賞を受賞。2016年度は「日本財団ソーシャルイノベーター支援制度」において、ソーシャルイノベーター10件に選定される。2017年10月、労働・雇用分野における取組みを加速させるため「HELLOlife」へ社名変更。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングにて、NPOやソーシャルビジネス等の民間公益活動に関する政策立案、企業の社会貢献活動に関するコンサルティングに従事。2017年春に独立、引き続きソーシャルセクターの基盤強化、社会的投資の推進、プロボノコミュニティの運営、人材育成等を行う。現在、地元世田谷にてコミュニティ財団設立に向け準備中。日本ファンドレイジング協会社会的インパクトセンター副センター長。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン理事。ブログにて発信を継続中(http://www.kazetotsubasa.com/)