REPORT

評価・研究

2018/03/29

【第1回目 委員会レポート(後半)】公的施設「OSAKAしごとフィールド」から、就業支援を考える

はじめに

「若者一人ひとりの生涯・人生(ライフ)に寄り添う改革」を目指す「ハローライフ構想」。

NPO法人HELLOlifeでは若者支援施策のアップデート・クリエイトをどう促していくか議論する場として、「若者支援施策イノベーション委員会」を立ち上げました。

宮本みち子さん(放送大学 副学長・教授)、湯浅誠さん(社会活動家・法政大学 教授)とご一緒した第1回イノベーション委員会。前半では、HELLOlifeが取り組んでいる「住宅つき就職支援プロジェクト MODEL HOUSE」について、後編はハローライフが運営に参画する大阪府の就業支援の拠点、「OSAKAしごとフィールド」(以下、OSFと略記)を題材に対話を行いました。

OSFの運営を、NPO法人ハローライフが共同で受託してから約半年。
少しずつ変化を遂げているOSFを見て、お二人はどう感じられたのでしょうか。
※前編はこちらから

■ 話し手


宮本 みち子さん(放送大学 副学長・教授)


湯浅 誠さん(社会活動家・法政大学 教授)


塩山 諒(NPO法人HELLOlife 代表理事)

■聞き手・書き手


水谷 衣里(NPO法人HELLOlife 参与、株式会社 風とつばさ 代表取締役)

(1)生まれ変わりつつあるOSF

――OSFに入るとまず、緑色の芝生エリアが目を引きますね。

塩山:運営受託後、5月から、「公園」をテーマにリニューアルを行いました。
人工芝のエリアはその象徴ともいえる部分です。中心には丘状のベンチを置きました。
くつろぎながら“仕事”や“働く”をテーマとした本を読んだり、
セミナーを聞いたりして欲しい。この場所を訪れる利用者とカウンセラーなどのスタッフ、
あるいは利用者相互がゆっくりコミュニケーションを深めることが出来る場所に育っていってほしい。
誰もが自由に利用できる公園というコンセプトにはそんな思いを込めました。

(フロアの中央にはシンボルとなる芝生の山を設置)

――開かれた空間からは、従来にはない出会いを演出しようという意図を感じます。

塩山:OSFは、若者、女性、高齢者、障がいをお持ちの方など、あらゆる世代の人たちが、
“働く”を共通軸としながらも、多様な目的をもって訪れる場所です。
それぞれのニーズは千差万別ですが、OSFではハローライフはもちろん、大阪労働協会、
大阪東ハローワークコーナー、大阪府地域若者サポートステーション、シニア就業促進センターなど、
複数の担い手が運営に携わることで、多様なニーズに応えようとしています。
オープン後も少しずつリニューアルを進めています。職探しという孤独になりがちなプロセスが
前向きな機会になるよう、試みを続けるつもりです

(大阪府の担当者の方から施設の案内を受ける湯浅 誠さん・宮本 みち子さん)

宮本さん:イギリス(イングランド)では、2001年に「コネクションズ・サービス」という取り組みが誕生しました。
この取り組みでは、これまでの若者支援策がニートの若者をプログラムに参加させられなかったという反省に立ち、
利用者である若者の声に基づいた支援が進みました。
OSFの利用者は若者に限りませんが、利用者の声を聴きながら事業を行うという観点から、
コネクションズ・サービスに学ぶべきことがあるように思います。

(宮本 みち子さん)

(2)デザインとしての広場、機能としての広場

湯浅さん:公園や広場って、常に色々な背景を持った人が出入りする場所ですよね。
つまり、“雑居性”がある場所です。雑居性があるから、偶然の出会いがある。
偶然の出会いは、職を探すという側面では視野を広げることに繋がります。
「自分にはこれしかない」と思いこんでいた固定観念が外れて、新しい仕事に出会える場所として機能する。
それが大切なんじゃないかなと思います。

(塩山さん)
OSFは、空間のプロデュースとしても新たなチャレンジをしていますが、
それは決して見た目だけのことではありません。公的な就業支援施設にありがちな、立ち寄りがたい、
よそよそしい雰囲気をできるだけ抑えることは大切です。
でも同時に、広場となっているスペースを活用したセミナーなども行いながら、利用者の声を拾い上げたり、
ニーズにこたえた就業支援に取り組む。そんな場を目指していきたいですね。

湯浅さん:単純に「色々な人がそこにいる」というだけでは偶然の出会いは産まれないんですよね。
放っておいても、雑居は雑居でしかなく、交わらないから。
言ってみれば「交通事故をわざと起こさせる」ような取り組みが必要ですね。
つまり、空間としての特性を活かしながら、ソフト面でも、異なる視点をぶつけたり、
新しい出会いを演出する取り組みを行う。その結果、利用者に対して、新しい視点を提供することが出来れば、
仕事に対する価値観が変わっていくのではないでしょうか。

塩山:中央のエリアはオープンなスペースですが、OSF内には個別のカウンセリングを行うスペースや、
静かに調べ物を行うスペースも設けています。
能動的に情報を摂取することと、落ち着いて自分と向き合うこと。そのバランスを取れるような場所を目指していきたいですね。

(湯浅 誠さん)

(3)キャリアを磨く。生き方を磨く。

塩山:OSAKAしごとフィールドは、求職者の皆さんに対して就業に向けた専門性の高い支援を行うことを目指しています。
一方で、単なるマッチングサービスのみならず、「キャリア形成」に必要な支援を幅広く行うこともミッションの一つだと考えています。
キャリア形成とは、どこに就職するか、どんな技能を持つか、ということだけを意味するのではありません。
働くことを通じて、技術や知識を身に着け、同時に人間性を磨いていくことを指すはずです。
つまり、職業を通じた経験や知識だけではなく、自分自身の生き方を磨いていくことが、
キャリアを積む、ということなのではないかと思います。

宮本さん:キャリア形成のためには、多様な社会経験を積むことが欠かせません。
社会教育の必要性も見直されています。OSFがキャリア形成を支援する場として存在するならば、
利用者が主体的に学び、自分自身の生き方を考えられる場づくりが大切だと思います。
OSFには、地域社会で起こっていることを知りながら、資源を繋いでいく。
利用者に対しては、主体的な学びを促していく。そうしたコーディネートを期待したいですね。

塩山:求人情報だけなら、近くにあるハローワークに行けばいい。
それにフリーペーパーやタウン誌、ウェブサイトでも求人情報は得られる。
施設である以上、利用者がわざわざこの場所に足を運ぶということの意味や価値を
感じられる場所に育っていく必要があると思っています。
そのためには、利用者同士が学び合うコミュニティを作ることや、
求職者のやる気や主体性を引き出す場づくりが必要なのではないかと思っています。

(4)仕事は仕事で終わらない

――就業にまつわる専門的な支援と共に、幅広くキャリア形成を支える。そんなOSFの姿が見えてくる気がします。

宮本さん:OSFに並んでいるのは、基本的には仕事の情報だけですよね。
一部、ママコーナーには、認可保育園の空き状況が掲示してありましたが。
でも、生活を成り立たせているのは、仕事だけではありません。
単純な求人情報だけではなく、仕事のイメージを膨らませていくための取り組みや、
もっと暮らしに直結した情報を提供することも大切だと思います。

湯浅さん:OSFは世代を問わず、サービスを提供していると思うけれども、そうすると、
中には仕事を求めているように見えて、実は生きがいを求めているケースもあるのではないでしょうか。
ゆくゆくは、例えばOSFで地域貢献のセミナーも開催する、なんてことが起こってもいいかもしれないですね。
自宅を開放してサロンを始めた人の話が聞ける、とか。
仕事以外でも、世の中と関われる、世の中に貢献できるんだ、ということは、意外と皆実感が持てていないから。
経済的な背景があって、職を求めている人には「就業支援」という観点で確実に対応する。
でも同時に、経済的な充実ではなく、生きがいを求めている層に対しては、
広場性・雑居性を活かして別の切り口を提供する。そういう試みをもっとしてみたらどうでしょうか。

(5)人生の可能性を拡大する

塩山:OSF自体を、就業やキャリアをベースに、自分の人生をどう豊かにするか、
という問いを利用者とカウンセラーなどのスタッフが共に考えられる場所に変えていけたらいいなと思っています。
働くことを目的にするのではなくて、自分の人生を豊かにするための機会として、OSFを利用して頂きたいですね。

湯浅さん:働くことに戸惑う人の中には、「働くこと」のイメージがなかなか持てない人がいます。
例えば、他に適正があるのに、事務職にこだわってしまうがゆえに、職にたどり着けない例が典型です。
違う価値観に触れることで、視野が広がる。視界が開ける。そうすると、道が開けることもあるのではないかな、と。

宮本さん:利用者一人ひとりのニーズに応えながら、人生の可能性を拡大する、そんな場所になっていって欲しいですね。

(塩山 諒)

(6)本来の目的に立ち返って

宮本さん:OSFは利用者別、問題別に縦割りになりがちな就業支援を、
横ぐしで支援しようという意思を感じる場所です。
多くの就労支援団体は、行政受託の中で縦割りに悩み、一面的な成果指標に悩んできました。
税金を使っている以上、理想主義で終わってはいけないけれども、単純な就職決定率に振り回されるのも、違和感があります。
重要なことは、その矛盾を皆で共有すること。矛盾に満ちていても、大阪府側、
OSFを共同運営する他団体とも悩みを共有しながら、コミュニケーションを続けること。
それだけでもきっと結果は変わってくると思います。

湯浅さん:目の前のニーズを満たしながら、公的施設としての役割を果たし、
同時にハローライフとしての価値も大切にする。とても難しいことにチャレンジしていると思います。
ただ、ニーズを満たすことに必死になってしまうと、知らず知らずのうちに
「若者の就業支援施策をクリエイト・アップデートする」という当初の目的から離れてしまう危険性もある。
毎年の成果をしっかり振り返りながら、進化を続けてほしいですね。

宮本 みち子(放送大学 副学長・教授)

千葉大学教育学部教授を経て現職。労働政策審議会委員、社会保障審議会委員、一億総活躍国民会議議員、中央教育審議会臨時委員、等を歴任。主な著書・論文に、『若者が無縁化する』(筑摩書房、2012年)、『下層化する女性たちー仕事と家庭からの排除と貧困』(編著、勁草書房、2015年)、『すべての若者が生きられる未来を』(編著、岩波書店、2015年)『リスク社会のライフデザイン』(編著、放送大学教育振興会、2014年)、『二極化する若者と自立支援』(編著、明石書店、2012年)『若者が社会的弱者に転落する』(洋泉社、2002年)など。

湯浅 誠(社会活動家・法政大学 教授)

1969年東京都生まれ。1990年代よりホームレス支援に従事し、2009年から3年間内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など。
著書に、『「なんとかする」子どもの貧困』(角川新書、2017年)、『ヒーローを待っていても世界は変わらない』(朝日新聞出版、2012年)、『反貧困』(岩波新書、2008年)など多数。
ヤフーニュース個人に連載中の「1ミリでも進める子どもの貧困対策」で「オーサーアワード2016」受賞。

塩山 諒(NPO法人HELLOlife 代表理事)

1984年兵庫県生まれ。2007年に社会変革への衝動を形にしようと「スマスタ」を設立。既成概念にとらわれない「創造力」と、セクターを越えた「つながり」で、この豊かなまちの格差や貧困問題解決に挑戦している。2014年度グッドデザイン賞を受賞。2016年度は「日本財団ソーシャルイノベーター支援制度」において、ソーシャルイノベーター10件に選定される。2017年10月、労働・雇用分野における取り組みを加速させるため「HELLOlife」へ社名変更。

水谷 衣里(NPO法人HELLOlife参与、株式会社 風とつばさ 代表取締役)

三菱UFJリサーチ&コンサルティングにて、NPOやソーシャルビジネス等の民間公益活動に関する政策立案、企業の社会貢献活動に関するコンサルティングに従事。
2017年春に独立、引き続きソーシャルセクターの基盤強化、社会的投資の推進、プロボノコミュニティの運営、人材育成等を行う。現在、地元世田谷にてコミュニティ財団設立に向け準備中。日本ファンドレイジング協会社会的インパクトセンター副センター長。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン理事。ブログにて発信を継続中(http://www.kazetotsubasa.com/